「おいしぃ~!」

 自分が食べ始める前に、双子の声が聞こえてくる。口のまわりをカスタードクリームで汚しながら、夢中でフォークを動かしていた。

「りんごの部分が、甘くて、でもほろ苦くておいしいわ。パンケーキもしっとりしてる……! すりおろしたりんごを入れたせいかしら」

 頬を押さえながら満面の笑みを浮かべているお母さんと、『うん、うん』と頷きながら味わって食べているお父さん。

 こんな光景、前世でも見たなあ。私の作ったお菓子を、施設の先生と仲間たちがうれしそうに食べてくれた。胸があったかさでいっぱいになって、なぜだか少し泣きそうになる。

「エリーもみんなを見てないで、早く食べなさいな」

 そうだった。待望のスイーツなのだ。心して味わわなければ。
 キャラメリゼされてきつね色になったりんごと、それを支えるずっしり、しっとりしたパンケーキ生地を口に運ぶ。

「……んん~っ!」

 よく知った、懐かしい甘さが口いっぱいに広がり、ほっぺたを膨らませたまま歓声をあげてしまう。
 こっくりした甘さのカスタードクリームも、りんごに合う。
 ああ、やっぱり、スイーツって最高!

「おねえちゃん、今日、なんかちょっとヘン」
「そうだよね。いつも食べてるときは静かなのに」

 双子に鋭いツッコミをされてぎくっとするが、

「しょうがないわよ。みんな砂糖を使った料理を食べたの初めてでしょ。自分で作ったとはいえ、エリーだってこの味には驚くわよ、ねえ?」

 お母さんがナイスな助け舟を出してくれた。

「う、うん。本じゃ味まではわからないからね」

 そしてついでに、まだこの国では広まっていない単語も教える。

「砂糖を使った料理のこと、お菓子とか、スイーツっていうらしいよ。甘いものって意味」
「スイーツか……。そんな名前がついているなんて、おかずとは違う特別なものなんだな」
「今日は昼食に食べたけど、本来は食後とかお茶の時間に食べるものなんだって」

 ふうん、と息を吐きながら、お母さんは口の中のパンケーキを飲み込んだ。

「そうなの。お茶なんて、仕事の合間に水分補給するだけのものだと思っていたけれど、外国ではスイーツを食べてひと休みしているのね」
「食後に、さらにスイーツも食べるのか? 贅沢すぎないか?」
「毎日ってわけじゃないと思うよ。それにそういうときは、食事を控えめにすればいいんだし」

 なるほど、と納得したように頷くお父さん。
 スープやサラダに手をつける前に、フライパンケーキがなくなってしまった。みんな『もう少し食べたかった……』というさびしそうな顔をしていたが、口には出さずに残りの昼食を片付けた。