ミレイさんの手を強引に掴んでいるのは、太ってお腹のせり出した、中年男性。身なりはちゃんとしているけれど、派手すぎて品がない。成金、というイメージがぴったりだ。
「ミレイさんを、は、離してください」
「なんだね、君は。私はこの女性を見初めたのだよ。一日私に付き合えば、なんでも買ってあげると言っているのに……。これがどれだけ光栄なことか、この女性はわかっていないみたいだねえ」
「そんなこと、関係ないです。嫌がってるんだからやめてください」
フライパンを構えながら、ふたりの間に入り込む。ミレイさんが不安にならないよう、口調と表情は強気の演技をしているけれど、足ががくがくと震えていた。
「やれやれ。小娘のくせに勇ましいねえ」
成金は、近くに停まっている馬車に目線をやって、杖をかつんと鳴らした。途端に、馬車で待機していたであろう従者が駆け寄ってくる。
「すみません。女性に手荒なことはしたくないのですが、旦那さまのご命令なので」
言葉は優しいけれど、有無を言わさない力で私を羽交い締めにしてくる。
「じゃあ、あなたは今のうちに馬車に来るのですよ。なあに、私の馬車は乗り心地も一流ですからね。心配することはありません」
無理やり手を引かれて、ミレイさんは馬車の手前まで連れていかれる。必死で抵抗しているが、力づくで馬車に乗せられるのも時間の問題だろう。
どうしたらいいんだろう。私の、この世界での初めての友達なのに――!
「ミレイさん……!」
そのとき。
「俺の城下町で、下品なことをしている輩がいるな」
聞き慣れた声が、後ろから響いた。
「誰だ!」
従者に羽交い締めにされたまま、身体ごと振り返ると、今まで見たこともない険しい表情をしたふたりがいた。
「アルトさん、ベイルさん……!」
安心して、泣きそうになる。
「ベイル、大人しくさせろ。怪我はさせるなよ」
「かしこまりました」
アルトさんの命令で、ベイルさんの瞳が鋭くなる。射抜くようなその眼差しに、肌が粟立った。
「な、なんだ、あんたは!」
一瞬にして雰囲気の変わったベイルさんが、炎のようなオーラをまといながら成金の前に進み出る。
私を押さえていた従者は、手を離して成金の側に飛んで行った。
「わ、わっ」
突き飛ばされた格好になった私を、背中側からアルトさんが受け止めてくれた。
「エリー、大丈夫か」
「は、はい。ありがとうございます」
アルトさんの胸にすっぽり収まるようなかたちになり、心臓がドキドキする。しかも、私が震えているせいか、そのまま離してくれない。手袋をつけた大きな手が、私の両腕に触れている。
遠い存在だと思っていた『王子様』が、こうして触れると生身の男性だと実感して顔が熱くなる。今はそんなこと考えている場合じゃないのに。
「ミレイさんを、は、離してください」
「なんだね、君は。私はこの女性を見初めたのだよ。一日私に付き合えば、なんでも買ってあげると言っているのに……。これがどれだけ光栄なことか、この女性はわかっていないみたいだねえ」
「そんなこと、関係ないです。嫌がってるんだからやめてください」
フライパンを構えながら、ふたりの間に入り込む。ミレイさんが不安にならないよう、口調と表情は強気の演技をしているけれど、足ががくがくと震えていた。
「やれやれ。小娘のくせに勇ましいねえ」
成金は、近くに停まっている馬車に目線をやって、杖をかつんと鳴らした。途端に、馬車で待機していたであろう従者が駆け寄ってくる。
「すみません。女性に手荒なことはしたくないのですが、旦那さまのご命令なので」
言葉は優しいけれど、有無を言わさない力で私を羽交い締めにしてくる。
「じゃあ、あなたは今のうちに馬車に来るのですよ。なあに、私の馬車は乗り心地も一流ですからね。心配することはありません」
無理やり手を引かれて、ミレイさんは馬車の手前まで連れていかれる。必死で抵抗しているが、力づくで馬車に乗せられるのも時間の問題だろう。
どうしたらいいんだろう。私の、この世界での初めての友達なのに――!
「ミレイさん……!」
そのとき。
「俺の城下町で、下品なことをしている輩がいるな」
聞き慣れた声が、後ろから響いた。
「誰だ!」
従者に羽交い締めにされたまま、身体ごと振り返ると、今まで見たこともない険しい表情をしたふたりがいた。
「アルトさん、ベイルさん……!」
安心して、泣きそうになる。
「ベイル、大人しくさせろ。怪我はさせるなよ」
「かしこまりました」
アルトさんの命令で、ベイルさんの瞳が鋭くなる。射抜くようなその眼差しに、肌が粟立った。
「な、なんだ、あんたは!」
一瞬にして雰囲気の変わったベイルさんが、炎のようなオーラをまといながら成金の前に進み出る。
私を押さえていた従者は、手を離して成金の側に飛んで行った。
「わ、わっ」
突き飛ばされた格好になった私を、背中側からアルトさんが受け止めてくれた。
「エリー、大丈夫か」
「は、はい。ありがとうございます」
アルトさんの胸にすっぽり収まるようなかたちになり、心臓がドキドキする。しかも、私が震えているせいか、そのまま離してくれない。手袋をつけた大きな手が、私の両腕に触れている。
遠い存在だと思っていた『王子様』が、こうして触れると生身の男性だと実感して顔が熱くなる。今はそんなこと考えている場合じゃないのに。