「エリーさんがもっと表に出てきてくれたら、頻繁におしゃべりをしに来るお客さまも増えると思うわ。もちろん、スイーツも目的だけど」
「厨房に人を雇って、カフェスペースを増やすのもいいかもしれませんね」

 店内のスペースは余っているので、テーブルと椅子を増やしても問題ない。一日で売れる量を作るのにも慣れてきたから、厨房に人を雇って売り子の仕事にも入りたいと思っていたのだ。やっぱり、どんなお客さまがどんなスイーツを買っていってくれているのか、この目で見たいから。

「素敵! ぜひ、そうしてほしいわ」
「この店舗を貸してくださった人に、相談してみます。ミレイさん、アドバイスありがとうございます」
「アドバイスだなんて。むしろ私のわがままを聞いてもらったようなものだもの」

 実現するのを楽しみに待っているわね、と言いながら、ミレイさんは手を振って去って行った。

 店内に戻ると、自分の注文の番が来るのを待ちながらおしゃべりしている女性たちが目に入った。こっそり会話に耳を澄ましていると、ここで顔見知りになり、おしゃべりするようになった人たちもいるらしい。

 日本と違って、身分のある女性がひとりで気軽に入れるお店って、ほんとに貴重なんだな。『スイーツ工房 ソプラノ』は店主も売り子も女性だから、それもよかったのかもしれない。

 よし、アルトさんとベイルさんが来たら、そのへんを相談してみよう。
 そう決心して厨房に戻ろうとすると――。

「いやっ、やめてください!」

 お店の外から、女性の悲鳴が聞こえてきた。しかもこの声は、さっき別れたばかりの、ミレイさん――!?

「そんな大声を出さなくてもいいだろう。誘っているだけなんだから!」
「て、手を離してください!」

 男性の声も聞こえ、お店の中がざわざわし始める。ミレイさんが、男に絡まれている?

「いやだわ、なにがあったのかしら」
「こわいわ」

 そう怯える女性たち。そうだ、ここにいるような身分の人は、ガラの悪い男にも、物騒な事件にも慣れていないんだ。

 私が、なんとかしなければ!

 厨房に入って、生地を伸ばすための麺棒を手に取る。でもこれだけじゃ不安なので、フフライパンも盾として使うことにする。

「ミレイさん!」

 片手に麺棒、もう片手にフライパンを持った姿で外に飛び出すと、涙を浮かべたミレイさんと目が合った。