着いたのは、城下町でもお城に近く、お金持ちの中流階級の人たちが多く家を構えている場所だ。前世の日本で言えば、高級住宅街といったところだろうか。
「あ、来た来た。エリーちゃん、こっちだよ!」
こぢんまりした建物の前で、ベイルさんが手を振ってくれている。
「ベイルさん! お久しぶりです」
「久しぶり。城下町はすっかり、『三時のおやつ』の話題でもちきりだね」
「そうですね。あのあと、注文の量もすごく増えたんですよ。下町は、午後三時になると通りにひと気がなくなるんです」
騎士団の人が口コミで広めてくれたんだとおもうけれど、噂の伝達スピードとはおそろしい。
「喜ばしいことだけど、逆に問題も出てきてね……」
「問題ですか?」
「ああ。君が住んでいる下町なら、君に頼めばスイーツが食べられる。王宮料理人にレシピを教えてくれたおかげで、王宮に住んでいる者も食べられるようになった。でも、まだ城下町全体を補えるほどじゃないだろう?」
「そうですね……。まだ一度もスイーツを食べたことのない人のほうが多いと思います」
「王族ばかり不公平だ、自分たちも食べたいと、貴族たちから文句も出ていてね。そこでまた、君の力を借りたいと思ったんだ」
「……今度は貴族相手に、お茶会を開くとかですか……?」
「それもいいけれど、君ももっとたくさんの人にスイーツを届けたくない? この店舗を見てくれないかな」
ベイルさんのうしろにあった白壁の建物は、空き店舗だった。
もとは、食べもの関係のお店だったのだろうか。中にはカウンターが残っている。奥行があるので、厨房もじゅうぶんな広さがありそうだ。
「パン屋さんか、なにかだったお店ですか? ほとんどの家具は撤去されていますけれど、大事に使われていたお店なんですね」
閉まってからどれだけ経ったのかわからないが、茶色い木の床に埃は落ちていないし、清潔に整えられている。腰元までベージュのレンガ、高いところは白壁という外観もかわいいし、内装も薄い色の木材と白で統一してある。キュートすぎず、地味すぎない私好みのお店だ。
「そんなふうに言われると、照れるなあ。まあ、昨日清掃業者を入れたばかりなんだけどね」
「……ん? ここってもしかして、ベイルさんのご実家の?」
「ああ。食堂を経営していると言ったけれど、以前は商売を広げてパン屋や惣菜屋なんかもやっていたんだ。ここはパン屋の跡地。両親が高齢になったから食堂一本に絞ることになって、ここは一年以上遊ばせていた土地なんだけど……」
それまで黙って話を聞いていたアルトさんが、口の端を持ち上げながら間に割り込んできた。作りもののようなキレイな顔が、間近にある。
「エリー。お前ここで、店を開け」
「はあっ?」
突拍子もない言葉に驚いてベイルさんを見ると、「また殿下は言葉が足りないんだから」と言いながら額を押さえてため息をついていた。
「あ、来た来た。エリーちゃん、こっちだよ!」
こぢんまりした建物の前で、ベイルさんが手を振ってくれている。
「ベイルさん! お久しぶりです」
「久しぶり。城下町はすっかり、『三時のおやつ』の話題でもちきりだね」
「そうですね。あのあと、注文の量もすごく増えたんですよ。下町は、午後三時になると通りにひと気がなくなるんです」
騎士団の人が口コミで広めてくれたんだとおもうけれど、噂の伝達スピードとはおそろしい。
「喜ばしいことだけど、逆に問題も出てきてね……」
「問題ですか?」
「ああ。君が住んでいる下町なら、君に頼めばスイーツが食べられる。王宮料理人にレシピを教えてくれたおかげで、王宮に住んでいる者も食べられるようになった。でも、まだ城下町全体を補えるほどじゃないだろう?」
「そうですね……。まだ一度もスイーツを食べたことのない人のほうが多いと思います」
「王族ばかり不公平だ、自分たちも食べたいと、貴族たちから文句も出ていてね。そこでまた、君の力を借りたいと思ったんだ」
「……今度は貴族相手に、お茶会を開くとかですか……?」
「それもいいけれど、君ももっとたくさんの人にスイーツを届けたくない? この店舗を見てくれないかな」
ベイルさんのうしろにあった白壁の建物は、空き店舗だった。
もとは、食べもの関係のお店だったのだろうか。中にはカウンターが残っている。奥行があるので、厨房もじゅうぶんな広さがありそうだ。
「パン屋さんか、なにかだったお店ですか? ほとんどの家具は撤去されていますけれど、大事に使われていたお店なんですね」
閉まってからどれだけ経ったのかわからないが、茶色い木の床に埃は落ちていないし、清潔に整えられている。腰元までベージュのレンガ、高いところは白壁という外観もかわいいし、内装も薄い色の木材と白で統一してある。キュートすぎず、地味すぎない私好みのお店だ。
「そんなふうに言われると、照れるなあ。まあ、昨日清掃業者を入れたばかりなんだけどね」
「……ん? ここってもしかして、ベイルさんのご実家の?」
「ああ。食堂を経営していると言ったけれど、以前は商売を広げてパン屋や惣菜屋なんかもやっていたんだ。ここはパン屋の跡地。両親が高齢になったから食堂一本に絞ることになって、ここは一年以上遊ばせていた土地なんだけど……」
それまで黙って話を聞いていたアルトさんが、口の端を持ち上げながら間に割り込んできた。作りもののようなキレイな顔が、間近にある。
「エリー。お前ここで、店を開け」
「はあっ?」
突拍子もない言葉に驚いてベイルさんを見ると、「また殿下は言葉が足りないんだから」と言いながら額を押さえてため息をついていた。