「なにをぼうっと突っ立ってるんだ。お前も早く座れ」
「え、いいんですか?」
「当たり前だろう。人数分椅子を用意してあるんだぞ」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

 ずっと給仕をするつもりでいたから、遠慮しながらふたりと同じテーブルにつく。ベイルさんが、すかさず私のぶんの紅茶をカップに注いでくれた。

「む……!? なんだこれは。パンのようなものかと思ったら、今まで食べたことのない味と食感だぞ。ほんのり甘い!」
「手にした感じは硬いのに、噛むとほろほろしている!」

 スコーンを食べた騎士さんが、そう感嘆の声をあげた。

「おい、こっちの洋梨が載ったものも食べてみろ。感動するぞ!」
「おい、このサンドイッチ塗られているものはなんだ!? 黄色くてとろっとして、果物との相性がバツグンだぞ!」

 生クリームがないので代用したカスタードクリームも、気に入ってもらえたようだ。

「粉っぽいものが多いので、紅茶を飲みながら召し上がってくださいね」
「あ、ああ……」

 がつがつ食べていた騎士さんたちも、紅茶を飲むと落ち着いたようだ。そこからはなごやかに会話をしながら食べ進めている。

「いやあ、なんだかほっとするな。考えてみたら、こうしてゆっくりお茶を飲む時間なんてなかったもんなあ」
「まったくだ。こうしてカップから飲むと、なんだかゆったりした気分になるな」
「この『スイーツ』の見た目もかわいらしいから、気持ちがなごむ」

 いかめしかった男たちの表情が、すっかり柔和になっている。

「そういや、先輩のところ、最近子どもが生まれたんですっけね。かわいいですか?」
「ああ、女の子なんだが、これが妻似の美人でな……」
「お前のところのおふくろさん、腰の具合はどうだ?」
「ああ、すっかりよくなったよ」

 そして、別のテーブルの人ともなごやかに会話するようになった。甘くて優しい空気が、この場全体を包んでいる。

「すごいな。荒くれ者たちが、お互いの家族を気遣う会話までしている。こんな和やかな時間は、高齢の先輩たちが退団して以来だ……」

 ベイルさんは、口元を押さえて目を潤ませている。

「甘いものとお茶の時間には、不思議な力がありますから」

 前世の記憶を思い出す。施設に入ったばかりの泣き虫の子が、おやつの時間で初めて笑顔を見せてくれたこと。会社に入ったばかりで緊張していたら、休憩時間に先輩がお茶菓子を分けてくれて、打ち解けられたこと。

「庶民の間に砂糖が広まったのは最近のことなのに、お前はずいぶん昔を思い出すような目をするんだな」

 頬杖をつきながら、アルトさんが私を横目で見つめた。ぎくっとして、紅茶のカップを落としそうになる。