そしてさらに、一週間後。
 ずっとお母さんに届け物をお願いしていたのだが、『そんな美形の若い男なんて見かけなかったよ』と毎日報告されていた。

 本当に、たまたまあの日だけ巡業に来ていた俳優さんだったのだろうか。
 ともかく、それならそろそろ外出しても大丈夫だろう、と外に出たのだが――。

 ――いる! この前と同じガス灯のところに!

 私が彼に気付くのと同時に、向こうも私に気付いた。
 どどどどうしよう。逃げようと思ったのだが、足が固まってしまって動かない。その間にも彼は私との距離をどんどん詰めてくる。ああもう、伸ばした手が届きそうなところにまで――。

「おい、お前! よかった、やっと見つかっ――」
「この間は、ごめんなさいっ!」

 彼が言いかけた言葉を遮って、私は思いっきり頭を下げた。
 やっぱり、逃げちゃダメだ。大人としてしっかり謝罪しなければ。

「……この間?」
「えっと、あなたを、はたいてしまったこと……」

 怒っていると思ったのに、彼は目を丸くして私の肩をつかみ、自分の顔を近付けてきた。

「俺の顔を覚えているのか? この顔を思いっきり叩いたことも?」

 なにを言っているのだろうか。こんな常識はずれの美形、忘れたくても忘れられるわけがない。

「は、はい……。ごめんなさい」

 そして早く離してほしい。前世だったらテレビの中でしかお目にかかったことのないようなキレイな顔を近付けられて、急激に体温と脈拍が上がっているのだ。

「へえ……。だったら、話は早い」

 彼は私の手を握って、すたすたと歩き始めた。

「なっ、何するんですか!」

 振りほどく力がないから、そのままあとをついていくしかない。そしてこの人、歩くのが早い。女子どもに合わせるという気遣いを持ち合わせていないのだろうか。

「あ、あの、せめて手を……」

 はぁはぁと息を弾ませながら、頭一個分以上高い彼に声をかける。

「ん?」

 と見下ろしてはくれたものの、よく聞こえなかったのか彼はニッと笑った。

「俺のことを覚えているってことは、この間俺が、『スイーツ』を食べたことも覚えているんだろ? うまかったよ、あれ。勝手に食っちまって悪かったな」

 さらっと謝られて面食らった。強引で無神経な、嫌な男だと思ったけれど、悪い人ではないのかもしれない。

 それに前回も今も、私の作ったスイーツを褒めてくれた。