その次の日。市場におつかいに行った私は、砂糖をくれた隣のおばさんに声をかけられた。

「あっ、エリーちゃん! お母さんから聞いたわよ、砂糖を使った料理を作れるんですって? 材料は渡すし手間賃も出すから、うちにも作ってくれないかしら。砂糖を手に入れたはいいけれど、どうやって使ったものか困っていたのよ」
「えっ」

 どうやら、昨日のうちにお母さんが噂を広めていたらしい。私の作ったりんごのフライパンケーキのことを、『ほっぺたが落ちる』とか『天国のような甘さ』とか、大げさに褒めていたようだ。

 おばさんの話に聞き耳を立てていた周りのご婦人たちもそばに寄ってきた。みんな近所の見知った顔だ。

「ちょっと、その話本当? うちにもお願いしたいんだけど。ちょうどさっき砂糖を買ったばかりなのよ」
「ああ、ずるい。うちも砂糖を買うから、作ってくれないかしら」

 次々に詰め寄られて、困惑する。

「と、とりあえず母に相談してみないと」

 お金をもらうんだったら、それは商売だ。家のこともやらないといけないし、お母さんは許可してくれないかもしれない。

 そう思っていったん引き取ってもらったのだが――。

「あら、いいじゃない。やってみたら?」

 お母さんはあっさりとOKをくれた。

「い、いいの? お金もらうのとかって……」

 こっちの世界では価値観が古いから、女性で働いている人はほとんどいない。家事手伝いをしながら嫁入りを待つのが普通なのだ。

「お母さんも嫁入り前は、近所の人の子守りしたり、お年寄りのお世話をしてお駄賃もらってたことがあったの。人の役に立ってお金を稼ぐのはいいことよ。子どもでも、女でも」
「お母さん……」

 実は先進的な考え方だったお母さんの言葉に、じーんとする。

「そうだよね……。みんなが困っているから助けたい、おいしいスイーツでみんなを喜ばせたい、それでいいんだよね」

 手間賃があってもなくても、私のやりたいことは前世と同じだ。たくさんスイーツを作れることが幸せ。それを食べて喜んでもらえたら、もっと幸せ。

「そうと決まったら、みなさんに報せにいかないとね。しっかり順番表も作らないとダメよ、一度に全員分は作れないんだから」
「お母さん、さすが!」

 母の勧めに従って順番表を作り、市場で声をかけてもらった順に渡しに行く。
 たくさん預かってきた材料を並べながら、スケジュール表も作る。それをキッチンの壁に貼ると、じんわりした感動がこみ上げてきた。

 前世で夢だったパティシエ。なんの資格も、お店もない私だけど、この世界だったらそれが叶うのかもしれない。たくさんの人を、スイーツで幸せにしたいっていう夢。

「……それにしても」

 お小遣いで材料をやりくりしていた前世に比べれば恵まれているよなあと、テーブルの上に山積みになった小麦粉や砂糖やバターを見て思う。

「よし、がんばろう」

 お母さんが、午後の家事は免除してくれた。夕食の準備までに、焼き菓子ふたつくらいは片付けられるはず。

 あの頃に思いを馳せながら、私はエプロンの紐を締めた。