駅に着いた。母さんは、俺の方に身体を向けた。

「…元気でね」

「うん。母さんも元気で」

「じゃあね?」

「ん。またな」

母さんは改札を通って階段をゆっくり上がっていった。途中でこっちを振り返った。

そして大きく手を振ってきた。さすがに恥ずかしいからコクコクと頷いといた。

そうして母さんは笑顔でまた、階段を上がっていった。

「元気でな、母さん。」

俺は母さんを見てつぶやいた。

帰り道、1人でゆっくりゆっくりと歩いた。

気持ちは何か重い感じやったけど、何かスッキリした。

これも。橘のおかげだよな…。アイツがいなかったら俺、ずっとずっと逃げてたやろうな。ちゃんと向き合おうとしいひんで、死ぬ時絶対後悔するやろな。そう思っていた。

「雑貨屋でも寄るかな。」

橘に似合いそうなネックレスを探した。髪の毛が長くて、目がデカくて、リンってしてるっていうん?んな感じかな。

「あっ…このペンダント…」

俺は金色のハートのペンダントに目をつけた。

「これ…可愛い。似合うかも」

俺はレジに行って買った。

カラフルな黄色や緑やオレンジの水玉の袋に入れてもらった。

そこに、メモがつけられるようになっていて、クローバーの形になっていた。

俺は、“橘へ。ありがとう”と書いた。ちょっと短すぎかなっとは思ったけど、書くことが他に思い当らなかった。

俺はちょっとルンルン気分で道を歩いた。

「橘、喜んでくれるかなぁ?」

そんなことを一人でつぶやきながら、歩いていた。

信号のない道を渡った。人はあんまりいなかったんだ。

俺は左右を見て渡った。車は…まぁ、こないかな。早く帰って橘にペンダントを渡したくて、焦っていた。

その時だった。ちょうど、道の真ん中で。

―――キキィーーーッ!!!!―――



一瞬訳わからんかった。

俺、はねられたん?

…意識が遠のいていく。

…橘…。

俺はあの時最後まで橘のことを考えていた。

…はずなのに。