「機転がきくね」

「だってお姉ちゃんが
隠れちゃうんだもん!

あの人、必死な顔だったよ?

まだタキシードだったし
お姉ちゃんと話がしたいんじゃないの?」

「ジャージ姿で会えないでしょ?」

「まあ
そうだね」

赤いジャージで、
タキシードの廉人さんの横を歩けないよ

私と妹は家に帰ろうと
歩き出した

「俺が信じたと思った?」

低い声に驚いた

私と妹はゆっくりと
振り返ると

怖い顔をしている廉人さんが
立っていた

「ど…どうぞ
お姉ちゃんを連れて行ってください」

妹は私を
廉人さんのほうへと押し出した

ちょっと!

裏切り者

「ありがとう」

廉人さんは
私の腕を掴むと
引き寄せた

勢いあまって
私は
廉人さんの胸に頭を
ぶつけた

「ついでに
お姉ちゃんの処女もどうぞ」

「こら!」

私は妹に怒鳴った

「もう、もらったよ」

廉人さんはほほ笑むと、
私を車のほうへと
引き摺って行った

助手席に私を放りこみ
運転席に座る

廉人さんの横顔は怖かった

窓の向こうで
妹は手を振ると

走ってマンションに入って行った