「少し足を伸ばそうか」

新田さんは車の助手席に私を乗せると水族館に連れてきた。

「せっかくのデートなんだから、恋人っぽいことしなくちゃな」

いたずらっ子のような笑顔を向けて私の手を指を絡めて繋いできて、突然の行動に私の心臓が跳ねあがる。

3年前のキス以来、彼は私に触れてくる事はなかった。

言葉では強引に迫るくせに、手のひとつも触れることはなくて、二人で出掛ける度にどこかじれったい感情に支配されている私はたぶんもう彼に引かれはじめているんだろう。

出かける前に母に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。

『他の人にとられる前に素直になりなさいよ』

同じ失敗は二度としたくない…あんな辛い思いなんて二度としたくない…。

繋いでだ手に自ら少しだけ力を込めると、それに答えるように新田さんも私の手を握り返して優しく微笑み、私の心臓が今までにないくらいに鼓動が早まった。