「オーダーストップ間近なのにすみません」

ギリギリの時間に滑り込んだ私を、断ろうとしていたウエイターさんに、厨房からちらりとこちらを覗いたシェフが席に通してくれた。

「シェフからの伝言です。
お店がクローズしても、お好きなだけくつろいでいってくださいと。
久しぶりにお見えになったので、クローズ作業が終わりましたらオーナーシェフがご挨拶したいそうですよ」

とコーヒーとデザートを運んできたウエイターさんが、私にこそりと耳打ちした。

「えっ…、私のこと覚えてくれてるんです…?」

「えぇ、もちろんですよ。
毎週火曜日の夜にいらっしゃる美人なお客様ですからね。
こんな美人忘れるはずありませんよ。
あっ…ゴホン、失礼しました。
少しお話し過ぎたようです。

シェフが睨んでますね。
ではごゆっくりお召し上がりくださいませ」

丁寧にお辞儀をしたウエイターが立ち去るとぽつぽつとお会計を済ませたお客さんがベルのついた扉をくぐり、気がつけばウエイターさんの姿もなくなっていた、