「良いですか、ミーア。あなたはわたくしから命令があるまで、部屋で待機していて下さい」

「で、ですが……」

「これはわたくしと彼が交わした約束なのです。あなたには全く関係のないことなんですよ」
 
そう、これはあの時に交わした約束をようやく果たす時が来たと言うことで、わたくしはこの街へやって来た。
 
だから誰も巻き込みたくなくて、わたくし一人で来るつもりだったのに。

「良いですね、ミーア? これは魚人族の長としての命令です」

「……分かりました」
 
ミーアは深く肩を落とすと目に涙を浮かべながら渋々と頷いた。
 
これはあなたを守るためでもあるのですよ、と言うことは敢えて言いません。

彼ならきっと分かってくれるはずですから。

「さあ、参りますわよ」
 
背中まであるターコイズブルーの髪をなびかせ、わたくしは彼の魔力を探りながら、先に街の中へと入って行く。

『ねえ、セイレーン。ブラッドに会うのは何年振りだっけ?』

「……そうですわね」
 
あの戦い以来、連絡はなるべく取るようにはしていましたが、彼はわたくしが人間観察が趣味だと言うことを知っていたので、中々会っては下さらなかった。

なんで……。

「……おそらく【百年振り】ではないでしょうか?」

『うっへ〜。あの人生きたね〜』
 
と、頭の中でマールの声が響く中、わたくしは目を細めた。

彼は人間族であるにも関わらず三百年生き続けた唯一の存在。

だからこそ人間観察が趣味なわたくしにとって、彼はとても貴重は観察対象。
 
本当だったらずっと側で彼を観察していたかったのでずが、あの人はそれを許してはくれませんでした。