「龍、覚えてる?

 高校の卒業式の後、学ランのまま
 龍が私の家に来た時のこと」



「ああ。
 俺が失恋して、おじさんたちに
 慰めてもらいに行った日だろ?

 今思えば、小百合の家に
 泣きに行くようになったのは、
 あの日が初めてだったかもな」



「学ランのボタン
 全部女の子に取られて。

 袖のボタンまでなくなっていたのに。

 ずっと好きだった子は
 他の男の子のボタンをもらってたって
 大泣きして」



「恥ずかしいから
 思い出させんなよ。そんなこと」



「あの日の帰り際に
 私が言った言葉は、忘れちゃったよね?」



「4年も前だろ?
 そんなの覚えてねえし」



「『私が付き合ってあげよっか?』って
 言ったんだよ」



「え?」



「その時の龍、はっきり言ったじゃん」



「……なんて?」



「『小百合のことは男としか思えない。
 だから一緒にいると気楽でいい』って」



「……」



「私は自分のことを
 女として見てくれない人とは
 絶対に付き合わないからね。

 さっき青木君と付き合うなら
 俺で良くない?って言ってくれたけど。

 青木君の方が、私のことを
 ちゃんと女として見てくれてるから。

 同情であんなこと
 言ってくれたのかもしれないけど。
 もう、二度と言わないで」



「俺は……
 同情とかそんなんで……」



「大丈夫だよ。

 私に彼ができても
 今まで通り我が家に泣きに来て
 くれていいから。

 そのかわり、十環やお母さんたちに
 慰めてもらってよ。

 私の部屋には、もう入れないからね」



「付き合うつもりなのかよ。
 青木って奴と」



「まあね。
 なんかこの綺麗な景色見てたらさ
 それもいいかなって。

 青木君と付き合ったらさ
 サイテーな自分が少しはマシな女に
 なる気がするし。

 そろそろ、帰ろっか。
 龍は寒いのを我慢してるでしょ?」



「してねえし」