プリンセスストロベリーの憂鬱

「ちゃんと、店長に挨拶してるし。
お父さんがもしもの時の避難場所みたいな感じでお願いしてるんだ」


いよいよ鷹司家の内情が分からなくなってきた。


「改善の余地はねぇのか?」


曾祖父様と話し合うとか、何かあるはずだ。


「あの位の年寄りって頑固で、人の話しを聞かない子供みたいなもんだからって、

じきに召されるだろうってことで黙ってるんじゃない」
「そんなのおかしいって」

「ん〜、それ以上は教師も親戚も踏み込んじゃいけない領域だと思うよ」


夏恵は納得がいかないオレの唇を指で押さえた。

その仕種は、こ慣れている女みたいだった。


「大丈夫。私はケーキと苺があれば頑張れるから」


強い言葉を使っているが、家族から守ってもらえない不安はあるのだろう。

本当なら自分が守ってやると言いたいが、

たった今、教師と生徒だからと夏恵自信に一線を引かれてしまった。
「苺もまだ好きだったんだな」

「うん。大好き。

智和くんありがとう。

私を覚えていてくれて」


夏恵は本当うれしいそうに笑った。

その顔に泣きたくなってしまった。


「そうだ。次会ったら、見せて上げるって約束してたよね」

「はぁ?」


何の約束をしただろうか?
頭を巡らせるが、思い出せない。

「上はキャミ着てるから見せられないけど、下なら大丈夫」
何がと聞く前に、夏恵はスカートの裾をつまむと、上に持ち上げた。


「なっ!」


目の前が銀色になった。

真っ白の面積の少ない生地に描かれた苺の模様。

そればかりか、生地に包まれたなだらかな曲線を描いた形の良いヒップも見てしまった。


「苺のパンツ見せてあげるって約束してたもんね」

「バカかー!もっと恥じらいを持て!」


思わず夏恵の頭を叩いていた。


「痛い〜」
「ったく。教室戻るぞ」

「何も叩かなくても良いじゃん。
パンツのないやつも見たことあるくせに」


「夏恵!」


夏恵は笑いながら教室に戻って行った。


オレが教室に入ると、何故か先程の明るい表情は消えて、朝と同じ顔で外を見ていた。


何を考えているかなんてその横顔からは分からなかった。
季節は春から夏に変わって生徒達も衣更えで薄着になった。


夏恵は傷が堪えなく、酷い時は長袖のカーディガンで傷を隠して来た。


先生方の間でも、夏恵の傷のことは話題になっていた。

何度も保健室に呼ばれて、事情を聞かれていた。


「朝霧先生は鷹司さんの怪我については何か聞いてますか?」


保健医に聞かれたが、果たして答えても良いものかと悩んでしまう。


「鷹司は何か言ってるんですか?」
「家で転んだとか、料理中に火傷したとかしか言わないんです。

でもどうみても虐待を受けてるとしか思えないんです」


保健医にこのまま黙っているとは言えないと思い


「保健室の方でお話しします」


保健室に移動して保健医に夏恵の家の説明をした。


「そうですか…でも、あれは異常です。先生、家庭訪問にいらしたらいかがでしょうか?」
「そうですね。近い今日の放課後にでも行ってきます」


家庭訪問は4月の始めるに行ったばかりだが、見逃してばかりもいられない。



仕事がなかなか片付かず、夏恵の家に着いたのは8時を回っていた。

遅くなってしまったが、連絡は入れてあるから大丈夫なはずだ。


「相変わらずデカイ家」


最初着た時も思ったが、同じことを思う。


純日本の家屋。家と言うより屋敷だ。
「こんばんわ。○○高校の朝霧と申します」


店の方からではなく玄関の方から挨拶するが、誰も出てこない。


もう一度、声をかけると従姉が出て来た。

どこか焦っているようだ。

「智和くん、ナツメが、夏恵がいないの」

「は?」

「家の中を探してもどこにもいないの?」


従姉は今にも泣き出しそうな顔をしている。


「バイトではないんですか?ケーキ屋に連絡は?」

「今日はお休みなの。学校からは帰って来たのに、食事を部屋に運んだらいなくて」

「夏恵、鷹司は家族と食事をしないんですか?」