プリンセスストロベリーの憂鬱

悪夢が始まる三日前、従姉妹からメールが入った。

近所に住んでいた優しい従姉妹で、オレの初恋の人だった。

けど、彼女が高二の時にできちゃった婚をして遠くに嫁に行ってしまった。

そこでオレの初恋は終わってしまった。
バイト先の和菓子屋の跡取り息子とその両親と祖父母に見初められ、できちゃった婚でも両家に祝福されて結婚した。

今は旦那が修業のために京都に行っている。


腹の子は女の子だってことを聞いたけど、結婚式以来彼女に会っていない。



悲しいかな男にとっては、初恋の人は特別らしく、彼女のメルアドを消したりなんか出来なかった。

飛びつくようにメールを開いた。
メールには季節の挨拶から始まり、

元気かとか

向こうの近況がかかれていた。

最後は近いうちにこっちに戻ってくるということが書いてあった。


初恋は破れても久方ぶりに彼女に会えると言うことは嬉しさに繋がった。
メールから次の日に従姉妹から電話がかかって来た。


「元気?今、大丈夫?」


オレが恋した優しい声。


でも、今は人妻の声。

別の意味で感動を覚えそうになった。


何を考えてるんだオレは!

「一人暮ししてるんでしょ慣れた?」


実家から少し離れた高校を選んだオレは今一人暮しをしている。


「まぁまぁ」

声が上擦ってしまう。

「智和くんにね、お願いがあるの」

「え?なんですか?」

彼女からの頼まれごとは初めてでドキドキした。
「今度そっちに帰るんだけど、私と主人は結婚式に呼ばれているの。その間、娘を預かってほしいの」

「良いですよ」


気づいたらオレの口が勝手に了承していた。


「ありがとう。日曜日はよろしくね」

「はい」


電話が切れてからとんでもないことを引き受けてしまったと、後悔した。

惚れた弱みに完全に飲まれてしまった。

引き受けてしまったからには断る訳にもいかない。

実家に連れて行って、母親にでも預けたら良いだろうと考えた。
だがその望みも十分しないうちに砕かれた。


母からの電話だった。

「あんた、美咲ちゃんの子供預かるんだって?」

「あぁ」

向こうに話しが行ってるなら早い。


「あんたのことだから考え無しに引き受けたんでしょ?
あんた本当に美咲ちゃん好きねぇ」

17年親をやっているだけあってオレのしたことは分かっているらしい。

うるさいといってやりたいが、まだ堪えた。
「あんた美咲ちゃんの子供連れてきても母さんいないからね」


「はっ?なんでだよ」

予想外の展開にオレは慌てた。


「お友達と旅行だから。女の子の相手があんたに勤まるか不安だけど、怪我だけは気をつけなさいね」


そう言うと母は無情にもさっさと電話を切ってしまった。

オレは途方にくれた。