「あのさぁ、恥ずかしいからやめてくれる?そんな昔話」

そう言って不機嫌そうに顔を上げた。

さっきまでの考え込んだカオじゃなくて、いつもの笑顔が視界に入った。

「え〜、俺たちの最高の思い出じゃん!な、ハル」

「まあな」

「そうは言っても本人は恥ずかしいんだよ!その話は俺のいないとこでしろよ」

俺がそっぽを向くと修二はニヤリと笑った。気がした。

「いいの?いないとこでしたら、どんどん美化されて、恥ずかしさ3割増しの美談になるよ」

「はあ?なにそれ。もう話すな、忘れろ!」

思わず振り返った。

「いくら颯多の頼みでも、それだけは聞けないなぁ」

「もういい!とにかく!俺はフラれた悲しみを紛らわしたいの!酒で戻れるなら安いもんだろ」

「もう全部話したし、いいよね?」

「ハル!メニューちょうだい」

俺はこの店では数少ないことを知っていたが、メニューを要求した。

「はいはい、わがまま王子は健在だな」

どこか楽しそうにメニューを用意してくれた。


そう、俺は告白してないけど、フラれたも同然と思っていたのだ。修二にこんな風に言われるまでは。