「別に……それより、今夜はお腹空かせておいた方がいいよ」
「ああ、ふじえが張り切ってんだろ? 高級洗濯機のお礼だって、夕方に電話かかってきた」
「え……ああ、そうだったんだ」
そういえば、夕飯を作り始める前におばあちゃん誰かに電話かけてた気がするけど……あれって伊月にだったのか。
「おまえの家っていいよな、なんか。みんなしっかり感情を持ってて一緒にいると落ち着く」
ぽそりとこぼされた言葉。
その声のトーンが気にかかり見上げると、伊月はやわらかい微笑みを浮かべて私を見ていた。
「俺んちなんか、みんなしてロボットみたいだし。夕飯ってなってもみんな無表情で話すことも仕事関係ばっかで……だからか、家で飯食べてもあんまりうまく感じないんだよなぁ」
「……それって、元からそうなの? なにかきっかけがあって?」
社長なんて立場になると感情を表に出さないようにと心がけそうな気もして聞くと、伊月は「元からだな」と答えた。
「父親は会社での立場上でなのか、家ん中でも常に上からしかモノを言わないから、そういう態度に母親は嫌気が差したみたいで、俺が小学校の頃にはもう冷たい空気が流れてた。ケンカするわけじゃないけど……なんていうか、温度のある会話もない感じだな」
「そうなんだ……」
寂しくも見える笑みを浮かべた伊月は、目を伏せ続ける。
「重たい雰囲気がこどもながらにすげー嫌だったこと、今でもよく覚えてる」
それから伊月は私を見てニッと口の端を上げた。