「きちんとアイロンのかけられたワイシャツを着て毎日違うネクタイをビシッとしてて、ハンカチだってきちんと持ってて靴だっていつもピカピカだった。疲れた顔を見せないところも素敵だなって思ってた」
彼に惹かれたのは、第一に優しさ。そして、身の回りの物全部に手が行き届いているところだった。
きちんとしている部分に、心の余裕みたいなものを感じた。安心感を抱いた。
それは……今思えば、もしかしたら光川さんから家庭の匂いを感じとったからかもしれない。
私の家にはなかったような、家庭の匂いを無意識に感じて……惹かれたのかもしれない。
幸せな家庭の面影を。
――でも。
「でも、そういうの全部、同棲してる彼女さんがしてくれてたことですよね」
ハッキリと告げると、光川さんがぐっと言葉をのむ。
「だから、やっぱり光川さんは最低だと思います。騙された私も悪いけど……正直、ふざけんなって思ってます。私は、ゲームじゃなくて、ちゃんと恋愛をしていたんです」
三歩ほど歩き、プレゼントされた小箱を押し付けるようにして渡す。そして、静かに手を振り上げて光川さんを引っぱたいた。
叩かれるなんて思っていなかったのか。驚いた顔をしている光川さんに真顔のまま告げる。
「せめて、腫れた頬のいいわけにでも悩んでください」
伊月が睨みをきかせているからか、光川さんにさっきまでの威勢はなかった。ただ、呆然としたあとで、うつむき……そのまま背中を向けた。
光川さんを叩いた手のひらがじんじんとして痛い。