伊月は眉を寄せ、「こいつが冷たいわけないだろ」と光川さんに言う。
伊月の怒った横顔を見ていて……顔がくしゃくしゃになっていくのを感じた。
今まではただ固まったみたいに無表情で泣くしかできなかったのに、伊月の優しさを感じ、感情が溢れ出してしまった。
ひっく、と泣き声をもらし目元を片手で覆うと、それに気付いた伊月が私の肩を抱き寄せた。
力強い手に、更に涙が誘われる。
「こいつの中身も見ないでただ欲の捌け口みたいに扱ってたとか、すげー腹立つ。……おまえ、自分がしたことわかってんのか? こんだけ傷つけてなんとも思わねーの?」
苛立ちを含んだ声に問われても、光川さんはなにも答えなかった。
私相手にはあんなにズケズケ言っていたのに……と思い、ふっと笑みがこぼれる。
女相手、酔っ払い相手じゃないと、ハッキリものも言えないのか。
こんな情けない姿が本性なら、本当に、簡単に騙されてしまっていたものだ。
偽物の優しさを与えられたってだけで、心を奪われてしまったなんて……本当にバカだ。
色々なことを頭でようやく理解して、ひとつ息をつく。
顔に残る涙を指先で拭ってから、視線を上げ光川さんを見た。
居心地悪そうにしている瞳を見つめて、口を開く。
「光川さんはいつも清潔感があったから、そういうところがいいなって思ってました」
涙を拭きながら話す。
ようやく落ち着いた気持ちのなかから、後悔がないようにと言葉を拾い上げる。
この人とこんな風に話すのはきっと最後だから。