「もう、こんな風に会いにこないでください。しつこくするようなら、会社に相談します」
目を合わせハッキリと告げる。
光川さんはしばらく呆然としたあと、私が本気だと気付いたのか、表情を崩し……それからはっと笑みを吐きだした。
「ずいぶん冷たい言い方をするんだな。二年も付き合ってたのに……まさかそんなに簡単に恋人を切り捨てるような女だとは思わなかったよ」
いつも穏やかで優しい言葉を紡ぐ声に想像もつかないことを言われ、すぐには理解できなかった。
今、いったいなにを言われたんだろう。
考えようにも頭の中が真っ白でどうにもできずにいる私を見て、光川さんが続ける。
「そっちこそ、別に本気で好きだったわけでもないんだろ? 少しでも悪かったなんて思って損したよ。俺なりに、今まで何も言わずに我慢してくれてたつぐみに罪悪感を持ったから、わざわざこうして会いにまで来たっていうのに」
馬鹿にしているような顔と声だった。
態度を冷たくした私に、光川さんは『どうしたんだ?』と聞いたけれど……今度は私がそれを聞きたくなるほどの豹変ぶりだった。
会社で見る、スマートな対応をする光川さんはどこにも見つけられない。私に見せてくれていた、やわらかい微笑みや、アドバイスを求めたとき流さず真正面から受け止めて真剣な答えをくれる光川さんもいない。
これが彼の本性なら……私はいったい、なにを見ていたんだろう。どこに惹かれたんだろう。
光川さんの顔を見ていられず、気がつけばうつむいていた。