「つぐみ……? どうしたんだ? いや、もちろん、そこまで混乱させてしまった俺が悪いけど、あまりに態度が違うから驚……」
「そんなの、当たり前じゃないですか。三股かけられてたんですよ……。その上、本命の彼女と結婚するんだって目の前で言われる屈辱まで受けて……せめて、私との別れ話を先にして欲しかった。それくらいの思いやりは欲しかった!」
強く言い切ると、光川さんは弾かれたように目を丸くした。
そんな表情にぐっと奥歯を噛みしめる。
それくらい当然にわかって欲しいのに、なにを驚いているんだって頭にくる。
この人は……本当に私の気持ちなんてなにひとつ考えてくれていないんだと、今さらすぎるショックがじわじわと胸を侵食していた。
大事なひとからの拒絶が、どれほど傷つくものなのかを私は知っている。
だから、色んな言葉を我慢してきた。
でも……違う。もう違う。
だって光川さんは、私を大事には思っていない――。
「私のことを大事に想ってくれているなら、結婚する身で〝やり直したい〟なんて、そんなことは言わない。光川さんは、ただ、気休めになる女だったら誰でもよかったんでしょう? 会えなくても文句言わない女なら……都合よく扱える女なら誰でも」
週に何度か会えて、会えない時間のことを口うるさく追及しない女だったら誰でもよかったんだろう。
それが、別れてしばらくしてからたどり着いた答えだった。
優しくはしてくれた。思いやってもくれた。ただ……愛されてはいなかった。