「もういいです。終わったことですし……謝るためにわざわざ来たなら――」
「それだけじゃないんだ」
〝もう帰ってもらっていい〟
そう伝えようとしたのに、遮られる。
見ると、眉間にシワを寄せ険しい顔をした光川さんが私を見ていた。
まるで、私に告白してきたときみたいな顔に……胸に負ったままの傷が疼く。
「俺は三咲さんを裏切っていたわけだけど……それでも、やっぱり気持ちが割り切れないんだ。まだ三咲さんが好きだ。だから……」
「待って。……なに言ってるの?」
三股かけていた身で、結婚する身で……どういうつもりで言ってるの?
正気だろうかと信じられない思いで聞くと、光川さんは苦しそうな笑みを浮かべた。
「三咲さんだって……つぐみだって、まだ俺を忘れたわけじゃないだろう? だってこの二年間、俺たちはとても上手くいっていたし楽しかったのは俺だけじゃないはずだよ。違う?」
懇願しているような表情に、ぐっと喉の奥が詰まる。
忘れたとか忘れていないだとか、そういう問題だけなら簡単だった。光川さんの言うように、悔しいけれど私はまだ完全に吹っ切れてはいない。
一緒に過ごした二年を忘れられない。
それでも、光川さんが結婚する以上、仕方がないと諦めるほかなかった。必死に割り切らなくちゃと自分自身に言い聞かせている最中だ。
なのに、当の本人である光川さんがこんな話をするなんて……。その勝手さに、気づけば笑みがこぼれていた。