「なに?」
「ううん。いっぱい触ってほしいなって思っただけ」

求められていることが、堪らなく嬉しいから。

込めた気持ちに気付いてか、そうじゃないのか。伊月はちょっと困ったように眉を下げてから「あんまり煽るな」と文句を言い、私の体に口づけた。



ベッドに寝転んだまま私の髪をいじる伊月に「わざわざ会社に呼び出さなくてもよかったのに」と言うと、思わぬ返事がきた。

「まぁ、外で会う約束でもよかったはよかったけど。受付まで話を回しておけば、万が一こっちに向かってる途中でおまえの気が変わったとしても行かざるを得ないだろ。だから逃がさないためにそうした」

一度逃げただけで、そこまで対策されてしまうのか……と苦笑いを浮かべていると、伊月が続ける。

「それに、前、受付のやつになにか言われたんだろ。今日の一件で、もうおまえはちゃんと覚えられただろうし、これからは顔パスで通せる。そしたら嫌な思いしなくて済むだろ」

髪を撫でる手を捕まえて、顔の前に持ってくる。
大きな手だな……と思いながら触っていると「くすぐったい」と文句が飛んできたけれど、振り払うつもりはないようだった。なので好き勝手触りながら「ありがとう」と微笑んだ。

情事の甘ったるい雰囲気がまだ漂う部屋。ふたりしてベッドの上で布団に包まれながらの会話は、伊月じゃないけれどなんだかくすぐったい。

でも、不思議と落ち着いた気分で話せた。
お互いの表情が読み取れるくらいの照度のなか、伊月が言う。