「せん、せっ……五十渡先生!」


よほど焦っているのか、もう院長の座についてそれなりに経っていたのにもかかわらず、昔の名残でそう呼んだのは馴染みの内科医だった。


院長室に飛び込んできたその男の顔からは血の気が引いていた。



「どうした刈谷。なにかあったのか」


いやな予感がする。


薄い刃物で背中を撫でられるようで、

次の瞬間、それを突き立てられたような衝撃が全身に走った。




「み、美里さんの容体が……!」



本来、仕事を投げ出し私情を優先することは許されない。

この病院で最も上の立場だとしても、咎められるかもしれなかった。


それでも。


俺は手に持っていたPHSを床に落とし、美里の元へ……


産婦人科へと走っていたのだった。