「徹さんもお水飲む?」

「いや、いい」


「そういえば水分補給って後じゃなくて前にしたほうがいいらしいよ。あ、そういえば」


よけいな知識を披露しつつ備え付けの机にある水を飲んでいたかと思えば、またなにかを思いついたように振り返ってきた。



「徹さんは男の子か女の子、どっちがいい?」

「どちらでも──」

「いい、はナシよ」



「……男の子かな」


渋々答えたら、くしゃりと破顔した美里は水分補給もそこそこに、ある紙を目の前に突き出してきた。


今度はちゃんと日本語で、紙の真ん中に大きな文字で書かれていたのは。



「じゃーん!これ、名前。男の子。どうかな?」


興奮すると単語単語で話す癖のある美里に苦笑しつつ、その名前を読み上げる。



「……(あや)?」


「そう、綾くん。よくない?」

「ちなみに女の子だったらどんな名前にするつもりだったんだ?」


聞きながらも、妻がなんと答えるかはそれとなく想像がついていた。



「綾ちゃん!」


案の定の答えだった。



「綾ちゃんはいいが、男に綾はすこし女々しくはないだろうか」

「あー男女差別!いまはジェンダーレスが謳われてるのよ」


ぷんすこという表現が最も似合うのは、彼女だと思った。


透き通るように白い陶器肌を、タコのごとく膨らませるその姿に酷く庇護欲をかき立てられる。