四限目が終了するチャイムが鳴ると同時に席をたつ。混まないうちに購買部でパンを買って、部室棟へと向かっていると、校内放送で俺の名前が呼ばれていた。
……なんだよ、急いでんのに。
窓ガラス事件で呼び出されるトラウマがついていたけれど、結局、課題の提出日が過ぎているという話だけだった。
十分遅れで部室棟に着くと、すでに汐里の姿があった。俺がいつも使っているソファの上で、彼女が猫のように丸くなっている。
……寝てる?
起こさないように近づくと、汐里は可愛らしい寝息をたてていた。
このソファの寝心地のよさなら知っている。俺を待っている間にウトウトしてしまったのか。それともよほど疲れているのか。
汐里は弱音を吐くのが苦手で、なんでもひとりで頑張ろうとする性格だから、きっとつねに気が張っているんだろうと思う。
こんなに華奢な身体なのに、大きな物を背負わせてしまっていることが苦しい。
俺は汐里の頭をそっと撫でた。糸のような黒髪が、指の間を通りすぎていく。
「……ん」
気配に気づいた汐里が、ゆっくりと目を開けた。
「……うわっ、晃」
よほどビックリしたのか、彼女はソファから飛び起きた。
「慌てすぎだろ」
そんな汐里にクスリとしながら、俺は隣に腰かける。
彼女はしきりに髪の毛を触っていた。俺が撫でた感触が残っているのかもしれないけれど、とくに問われることはなかった。
もしかしたら、気づかれなかったのかもしれない。