奴隷には、自由が無い。
思想を与えられず、力も何も無い。
人権など元から無い。
6歳の頃、ヒルダ・レガートは母親に売られた。
父は居ない。
他界したのではなく、母親から逃げたのだ。
『お前を養えるほど、こっちは裕福じゃないのだよ』
己の行為をたったの一言で正当化した母。
ヒルダはそんな言葉を受け、奴隷商人スメイに引き渡された。
──じゃあ、どうして産んだ。
ヒルダは母を睨んだ。
母の方は、己に対して目角を立てている娘のことなど興味も無いのか、奴隷商人から受け取った幾ばくかの金を数え、唇を笑みの形に歪めていた。
ヒルダは憤死しそうになった。
悲しみよりも、怒りの方が強かった。
叫び、母を殴り、慟哭したかった。
叫ぶのも、殴るのも、簡単だ。
しかし、何も解決しない。
ならば、行動に移すだけ無駄だ。
──もう、いい……。
ヒルダは奴隷商人に乱暴に腕を引かれながら、心の中で呟いた。
──感情なんか、全部全部、ドブの中に捨ててやる。
そして、“憎しみ”だけが、心に残ったのだ。
「なんかもう、どうだっていい」
ぽつりと呟き、ヒルダは奴隷船へと連れていかれた。