きっと自分は在原業平だろうと彼女は思っていた。
そして、先生は伊勢斎宮と言った所だろうと感じていた。別れの際に女方が和歌の上の句を書いて差し出した杯の皿に、炭で男側が下の句をつけ足すというなんとも優美なことをした二人。その儚い約束の中にある熱い思いにこちらの方が打たれてしまう。

とはいえ、なんにせよ結ばれないのは確かなのだ。
冬香はその事実に突き当たるといつも悲しくなる。そして授業も終わる。この五十分という短い時間の中では彼女は何もすることが出来ない。目を合わせるのさえやっとの事だった。
それはまさしく在原業平だった。