──現代、高二B組

「冬姫……?」 

あまりの緊張に冬香はオウム返ししか出来なかった。
表情は取り繕っているものの、上手くは笑えていなかった。

「梅壺にいた人だよ。とても美しくて心優しい人だった」

先生は寂しげに微笑んだ。初めて見る顔だった。

「その言い方、本当にいた人みたいじゃないですか」

「本当にいた人だよ」

「冗談やめてください」

「嘘だと思う?」

今度はいたずらっぽい顔をした。少しずつ遊び心が戻ってきたようだった。

「私にはわかりません」

気まずい沈黙の間に先生は足を組んだ。冬香はただ、相手の表情を伺い続けることしか出来なかった。