静かな波の音。


刻一刻と色合いを変える夕日。


光の粒がきらめく水面。


マサさんの横顔。


カシャ。


シャッターを切る。




「ねえ、弥生ちゃん」
 


マサさんは、いつも優しい声色で話す。



私はマサさんとなんでもない話をだらだらするのが大好きだった。



「俺ね、去年の文化祭で初めて弥生ちゃんの写真見たの。ほら、俺全然部活行ってなかったから」
  

あぁ、嫌だなぁ。


目がじわじわと熱を持っていくのが分かる。


 
「びっくりした。あの子、こんなに綺麗な写真撮るんだなって。展示会の中であーこれ好きだなぁって思った写真、全部弥生ちゃんの写真だったよ」


弥生ちゃんっていう呼び方が好きだった。



丁寧な言葉の使い方が心地よかった。



「すんごい綺麗な世界に生きてる子なんだなって思った。どんな子なんだろう、話してみたいって、気になった」



ぽつぽつと、私の話を続けるマサさんの横顔はとても穏やかで。




「……気付いたらここに連れてきてた」

    

それだけで、ただ泣きたくなった。



「あー、もっと早く弥生ちゃんにはここを教えればよかったなぁ」


マサさんが私にこの場所を教えてくれたのは、私の写真が好きだから。


この、世界で1番美しい景色を私にカメラで撮らせたかったから。


きっとそれは事実で。


紛れもなく真実で。
  


けれど、もしかしたらそれは。






 

「……もっと、一緒にいたかった」







オレンジ色に染まる空間。



私とマサさんだけの特別な時間。
 


私たちは同じ想いを抱えて、ずっとふたりでここにいた。




じんじんする目から、ついに涙が伝う。



右手で優しくそれを拭ってくれるマサさん。


 


「……弥生ちゃん、泣かないで」




左手にあるのは、卒業証書。
 



やるせない笑顔だった。