夕方は好きだ。

特に、ちょうど今くらいの時間が。


理科室のカーテンを開けると、
水平線の上にまるいオレンジ色が浮かんでいた。


綺麗に染まる海。

今日はいつもより海が凪いでいる。

 


窓を全開に開けると、風が頬をやさしく撫ぜた。


潮の匂いがする。



私はカメラを構えて、シャッターを切った。


夕日と海。


写真の素材として、これ以上ないほど綺麗な組み合わせだと思う。


この時間、この理科室からの景色がいちばん美しいことを知っているのは、


この学校で私たちだけだった。



「……やっぱり、ここにいた」



知っているのは、私とマサさんだけ。
 

「マサさん…いや、ここに来ちゃって大丈夫なんですか」


「んー?大丈夫大丈夫、俺以外のクラス全員教室にいるし」
 

「なるほど大丈夫ではない、と」


「あんまり長くはいられないかな」


マサさんは小さく笑って、私の右隣に立った。


すっきりした柑橘系の香りがふんわりと漂ってくる。


鼻の奥が少しだけツンと痛んだのは、きっと気のせい。