えーと……。

「あっ、じゃあ、私、おごりますよ。

 専務、おっしゃってたじゃないですか。
 彼氏のフリしてやったんだから、今度おごれよって」

 花鈴は落とし所を見つけて、ホッとしかけたのだが、光一が、
「いや、それはいい」
と即行断ってきたので、そのまま会話は終わってしまった。

 エレベーターでも沈黙に耐えかねるタイプの花鈴は、
「あっ、じゃあ、また。
 今日は、どうもありがとうございました。

 お世話になりましたっ。

 今日は監査役と話す機会なかったので、シュークリーム、じっくり食べて、今度、監査役に感想とお礼を言っておきますねっ」
と早口に言い、慌てて降りる。

 車に乗り込み、では、と頭を下げて走り去った。

 光一がずっと自分を見送っている気がしたが、まあ、気のせいだろう、と思う。