「花鈴、初めてのときは、家の方が緊張しないかもしれないが、お前は一人暮らしじゃないし。

 うちは家にたくさん人が居るから。

 特に田畑なんて、お前を捕まえて、夜通しベラベラ喋りそうだしな」

 そんな執事さんもどうなのでしょうね……と思ってしまったが、まあ普段は有能なのだろう。

 高倉さん仕込みのようだから。

「あっ、あのっ、帰れないのなら、おうちに電話をかけたいのですがっ」
と花鈴は鞄からスマホを取り出す。

 この誘拐犯の人は、電話くらいはかけさせてくれそうだったからだ。

「も、もしもし、あれっ? ……えーと、お兄ちゃん?」

 また来てたの、という言葉は飲み込んだ。

 電話に出たのは、兄、智也だった。

 それはいいんだが、できるだけ普通に振る舞おうと思っていたのに、なんとなく声をひそめてしまった。

 ヤバイ。
 この電話、街中からかけたにしては静かすぎるし。

 なんだか、この緊迫した空気まで伝わってしまいそうだ……。

 そう思いながらも、花鈴はできるだけ明るい調子を装って言う。