「あ、田畑さん、こんばんは。
　お世話になっております」

　いや、なにをお世話になっているのか。

　世話になっているのは専務だが、と思いながらも花鈴が言うと、田畑は少し陽に焼けた顔で笑い、

「すみません。
　気づかぬフリをして通り過ぎようと思ったんですが、目が合ってしまいまして」
と言う。

　ああいえ、どうもどうも、と花鈴はなんとなく何度も頭を下げる。

　なんか迫力のある人だ、と思ったからだ。

　目つきといい、身のこなしといい、まるでスナイパーかなにかのようだ。

「光一様は、花鈴様とのデート、楽しみにしております。
　よろしくお願いしますね」
と田畑は微笑んできた。

　あ、はい、と頷きはしたものの。

　いや、私も初デートなので、なにをどうよろしくしたらいいのかわからないんだが、と思っていた。

「では」
と去っていく田畑を見送っていると、

「花鈴っ」
と椿が袖を引いてきた。