「あれ、沙紅芦。終わったんだ」



「紫衣羅くん・・・・。うん」




今日の分担が終わり、今日も資料室でドイツ語の勉強をしていると、ふいに資料室のドアが開いた。





紫衣羅くんは私が座っているテーブル席に近づいてくる。



そして、私の椅子に手を置く。



「進んでる?」



「ぼちぼち、かな」



「そっか」



「でも、少し読めたよ」



そう言って、ヒント書いてある本のページを見せる。



「そうなの?」



「うん、ここの゛大切さものとは゛だけだけど」



そう言って、訳せた単語を指で指す。



「へえ」



ほとんど真後ろあたりにいる紫衣羅くんが、前かがみになるように本を覗く。



その体勢は、ある意味密着している感じに近く、思わず変な感覚が胸に現れる。



顔が近いような近くないような・・・・。




(な、なんだろう・・・・・・・・)




「ん?どうかした?」



「なっなんでも」



「そう」



(なんだったんだろう・・・・今の。

碧斗くんに抱きつかれてもそういうのなかったのに、変なの・・・・)




それから紫衣羅くんは、私の隣で自分の持っているドイツ語の参考書を平げ勉強を始める。




「あの・・・・紫衣羅くん」



「ん?」



手を動かすペンを置き、紫衣羅くんの方を向く。



「私ね、ここに連れて来られた意味ってなんだろうなって、ずっと思ってたの」



「・・・・」



紫衣羅くんは聞き入ってくれるように顔を私に向けてくれる。




「きっと、意味があるんだよね。意味がなければないんだよね」



「意味か・・・・。意味というよりは問題がある感じだな」



確かに私に問題があるからこそ連れて来られたというのもある。



「でもどうして、私の記憶だけを取って感情を残したんだろう?」



記憶を取る理由って何があるんだろう。



それも、何かの問題があるからなんだろうか。




「まだ、なんにも思い出してないんだよね?」



「・・・・うん、何も」



「そっか・・・・」



ふうと溜め息を吐き、顔の下に置いている手を顎へと置いた。



「大事な想いなんか、本当に見つかるのかな」



「・・・・大事な想い、ねぇ」