「大丈夫ですよ、深刻に考えなくても」



静まり返っている私に、朱笆さんはそっと添える。




「・・・・・」



「いつかそう思えますし、笑う事だってできます」



「えっ・・・・あ」




俯きながちだった顔が、朱笆さんの方を向く。



目が合わさった時、朱笆さんは微笑みを浮かべる。



「気付いてますから、みんな気付いているはずです。あなたは一度も笑顔を向けていない事を。多分、笑わないんではなく、笑えないんでしょ?見ていたらわかります」



「そう・・・・ですか」



気付いていたんだ。



私が笑顔を向けれない事を・・・・。




また頭が俯きがちになると、そっと私の頭に朱笆さんの長くきれいな手が置かれ撫でられる。




「大丈夫ですよ、いつか笑える日が来ます。記憶だって心だって戻って来ますから。だから、そんな悲しい顔をしないでください」



「朱笆さん・・・・」



「どう接したらいいのか分からないのなら、分からないままでいいんです。分かろうとしなくていいんです。でも、自分の心だけは見失わければ、いつか分かる日がきます。僕はいつだって、そう生きてきましたから。だから、沙紅芦さんも自分を見失わないでください」



「見失う・・・・?」



「あなたを見ていると少し心配になるんです。
記憶がなくて人と接するのが苦手としているからこそ余計に。自分を見失うんじゃないかと」




儚く、でも、朱笆さんの瞳は優しさに溢れていた。



言葉と同時に気持ちが揺らぐ。