「なんか、紫衣羅くんが羨ましいな」



「はっ?」



「私ね人から優しい感情を向けられた事がなかった気がするんだ。でも、紫衣羅くんやここにいる人達はみんな暖かい。こんな私にも優しくしてくれるからちょっと戸惑う。
でも本当に優しいなって思えたの、ありがとう」



笑顔にはならずとも言葉で思いを伝える。



「・・・・・・・・」




だけど、私のその言葉に紫衣羅くんは、先ほどと同じような、一瞬冷めたい表情を見せる。



「さっきさ、俺のこと腹黒いって言ってたけど、あれさ、結構そうだと言えるよ」



「えっ」



それは、自分が腹黒いって事を認めたような感じだった。



「その通りなんだよね・・・・」



「でも紫衣羅くんは、穏やかで優しい人・・・・だよ?」



「そうだね、表ではね。・・・・俺は、君が思っているより優しい人間じゃないんだよ。
俺はね、君のほうが、優しくて素直な子に見えるんだよ」



「えっ・・・・?」



その時の彼の瞳は、自分を哀れんだかのような表情を見せていた。



(優しいなんて・・・・、そんな事、ないのに)



私は彼の言葉を受け入れる事は出来ずにいた。



そんなはずがない。



私に優しい感情なんてあるはずない。





「それは、気のせいだよ・・・・」



「気のせいか・・・・。まあ、今の君の感情からすればそうなのかな?」



感情とか記憶とかそういう訳ではない。



単に私は・・・・。



「そうじゃなくて・・・・っ 私は人に優しい感情なんか向けられないの、向けることができない。笑顔だって上手く作れないのにっ」



「えっ・・・・」



私は力むように強めに語尾を強調した。



「よくわからないの。どうして笑えないのか、笑おうとしても顔が強貼って上手く作れない。感情だって、いつも暗いままなのに、優しい感情なんてある訳ないよ」



分からない・・・・。



本当にその通りなんだ・・・・。



自分の心には感情なんかないんじゃないかと思うくらい、何も分からないんだ。




私の思いに応えるように紫衣羅くんはそっと呟いたのだった。



「・・・・やっぱり君も同じなんだね」





「ごめんね」


「ううん」



「でもさ、本当に俺って優しくないから、それは分かってもらえる?」



そう言って、右手を首に当て傾ける。



「ねっ?」



「あ、うん・・・・」



「まあ、どっちでもいいんだけどさ」



そう、いつもの軽やかな表情で、リビングに入っていく。



(紫衣羅くん・・・・)