紫衣羅くんは、私の部屋の前まで送ってくれた。



「少し横になっておいたほうがいいよ。夕食になったら、起こしに来てあげるから」



「・・・・うん」



「じゃあね」



そう言うと、踵を返し戻っていく。



戻っていく姿に声を掛けた。



「あ、あの!」



「ん?」



私の声に振り向き戻ってくる。




「優しいんだね、ありがとう」



私はお礼の意味を込めて゛ありがとう゛と言った。



すると、紫衣羅くんは━━。



「別に。しんどそうにしている子に、手を差し伸べるのは普通でしょ」



いつもの微笑みを見せてくれると思いきや、むしろ正論ぽい言葉で向けられる。



「そうなんだけど、すごく暖かったから」



「暖かい?」



胸のあたりで両手を握り合わせ、紫衣羅くんから感じたぬくもりを話す。



「うん、人の手って暖かいんだなって。なんかすごく懐かしいというか嬉しくなった」



「・・・・・・・・」



「私、そういうの感じたことないから。ここは、暖かい人が多いんだね」



「・・・・・・・・」



私の言葉になお紫衣羅くんは、なにも発する事なく、むしろ浮かない表情を示したままだった。



「だから、嬉しくて戸惑って・・・・」




「それは、君が優しい子だからだよ」



彼がようやく発した言葉がそれだった。



「えっ?」



そして紫衣羅くんは、低い口調で淡々と言った。



「俺は別に優しいわけじゃないんだよ」



「紫衣羅くん・・・・?」




その言葉を放った後、彼は何も言う事なく静かに去っていったのだった。