碧斗くんがお屋敷に戻っていった後、紫衣羅くんはふいに聞いてくる。



「出ても、大丈夫なの?」



「うん、平気」



「無理しちゃダメだよ」



「もうすぐしたら戻るよ」



「そっか、わかった」



紫衣羅くんは少し心配そうな表情を見せたものの、頷きをみせた。



そして、先ぬお屋敷の中へと帰っていった。




「ふう」



ひとりになり、ひとつ息を吐く。



(暖かいな、ここは)



穏やかで暖かい感覚が流れる。



穏やかで心地いい。



多分、元いた世界では、こんな風に感じた事はなかったんだと思う。



感情がわかる。




私はいつも暗い感情ばかりいた。



楽しさやうれしさなどいつも感じることはなかった。



そのせいか、気がついた時には笑うという感情表現が出来なくなって、私の中から消えていた。



以前はどうやって笑っていたのだろうか。



そもそも、ちゃんと笑顔をもたらしていたのだろうか。



分からないけど、多分なかったのだと思う。



もしかしたら、記憶を消されているのは、この事も関係あるのかもしれない。




「・・・・・・・・」



しばらく畑の近くのベンチに座っているとだんだんとぼーっとなる。



「大丈夫?」



「紫衣羅くん・・・・」



すると、先にお屋敷に戻っていた紫衣羅くんが、心配しに見に来てくれたのか、また近づいてきてくれた。



「ぼーっとしてるね。部屋に戻った方がいいよ」



「そう、だね・・・・」



「ほら」



そう言って紫衣羅くんは、手を差し伸べてくれる。



「・・・・」



「ん」



「う、うん」



差し伸べてくれる紫衣羅くんの手にゆっくりと重ねる。



(・・・・・・・・)



少し気恥ずかしい感じになったのは気のせいではないかと思った。