「強いて言うなら、思想が感じられないからでしょうか。コンラッド様は王族であることを傘にきた言動をよくなさいますが、王族をして何をするつもりなのか、傍目には全く伝わってこないので」

「なに?」

「権力とは人に多くを与えることができる人が持つ特権です。国のために使わなければ、怠慢な王だと批難されるでしょう。王となってからの目的が無いのならば、権力など持つべきではないのです。過ぎた権力は身を滅ぼすだけですもの」

クロエの言っていることが分からないというように、コンラッドは頭を抱える。

「俺は……ただ王になりたいだけだ。国のことは伯父上が考えることだ」

「あなたが王となるのなら、それではいけません。理想を掲げない王に、人はついてなどきませんから」

「そんな……っ」

惑うコンラッドに、クロエは呆れる。本当に何の覚悟もなく、王になろうとしているのだったら、王についてすぐに後悔することになる。侯爵に踊らされているとはいえ、十八歳の男性としてはあまりに考えが足りない。

「コンラッド様。あなたは一度でも、街を見たことがあるのですか。民を見たことは。自分の手の中に、何千何万という人間の命が預けられているということを、本気で分かっておられるのですか?」

王族としてのプライドを、ずたずたに引き裂くつもりで、はっきりと言う。
コンラッドが体を震わせ、おびえたような目になったのが分かった。

うまくやれば、説得できるかもしれない、とクロエは思う。
本人に、王の器ではないと認識させるのだ。いずれナサニエルかアイザックが戻って来たときに、コンラッドが素直に身を引いてくれるように。