少しだけ緊張が解けて、クロエは息を吐きだした。まだコンラッドは部屋に残っているが、マデリンほどの恐ろしさはない。

「そなた、母上が恐ろしくないのか」

掠れた声とおびえたような目で、コンラッドがクロエを見据える。
少し余裕の出たクロエは、笑って見せた。

「……私が恐ろしいのは、自分が自分じゃなくなることですわ。自分の中の真実を曲げたくないのです。心を曲げて従って生きるくらいなら、死んだ方がマシです」

「君は、……いつもそうだな」

コンラッドは、頭をクシャリとかきむしり、ポソリとつぶやく。
クロエは、黙って続きを待った。

「いつも潔い。母上のように常に取り巻きを引き連れるでもなく、ひとり凛と立ち、不条理さを感じれば教師だろうが上級生だろうが構わずに意見する。俺に意見してくる女も、君くらいなものだった」

学園で、コンラッドは腫れもの扱いだった。
それは自身のふるまいが原因だろうが、気にしていたというならば意外だ。

クロエだって、自分からコンラッドに話しかけに行くことはなかった。よく話しかけられるから、誘いを断るために厳しいことを言っただけだ。そこを気に入ったというならばマゾなのだろうとも思う。

「ほら、その目だ。蔑むような……。どうして君は俺をそんな風にしか見ないんだ」

「そんなことを言われましても」

クロエも困る。尊敬できない人間を好意的に見れるわけがないだろう。まして、クロエは自分に正直であることをモットーとして生きているのだ。