「まあ、人質くらいにはなるでしょう。王には一夫多妻が許されているのだもの。世継ぎは別の女に産ませるのなら問題ないわ。せいぜい、いたぶって、若い花をお前のために散らせてやればいいわ」

「お断りですわ。汚されるくらいなら死にます」

「馬鹿ね。お前には死ぬ自由もないのよ。コンラッド、結婚式など待つ必要はないわ。お前はこの娘が気に入っているのでしょう。だったら、お前の言うことを聞くように、体にしつけてやりなさい」

「母上?」

コンラッドがぎょっとする。クロエもさすがに驚いた。
貴族の結婚で、婚前交渉などあり得ない。少なくとも、由緒正しい家柄であるアンスバッハ侯爵家出身のマデリンにそれを言われるとは思わなかった。

「そんなに慌てなくても、俺は王になるのですから、その後でいくらでも……」

「この娘はお前と婚約破棄するために、お前が平民の子であると噂を流すでしょう。そんなことになれば面倒でしかないわ。口を割らないようするには、喉を切るか、身も心もお前のものにするかよ。妻が鳴かない鳥というのもつまらないでしょうから、調教する方を進めているのよ。すぐに媚薬を届けさせるわ」

「媚薬……なんでそんなものを」

コンラッドは、母親の気迫に圧倒されているようだった。子供みたいに我儘ではあるが、根っからの悪人ではないのだろうとクロエは思う。それよりも、媚薬を常備しているマデリンのほうがよほど問題だ。

「いいわね。しばらくこの部屋の前には見張りをつけるから」

じろりと睨んで、マデリンが出ていく。