思い当たることがあったのか、コンラッドは一瞬青ざめる。けれど、その考えを振り払うように頭を振った。

「クロエ嬢、そなたはここから絶対出ないように。見張りの侍女を寄こす。俺は母上に……」

「その必要はありませんよ。コンラッド」

静かに部屋に入ってきたのは、マデリンだ。その目には燃えるような怒りが宿っていて、クロエを汚物を見るような目で一瞥し、口もとを扇で隠して、コンラッドに滔々と告げる。

「お前の父親は陛下ですよ。ずっとそうだったでしょう」

「母上! 本当ですね? 俺はちゃんと父上の子ですよね?」

「本当ですとも。母を信じなさい。こんな根も葉もない嘘をつくなんて。クロエ、あなたは礼儀も知らないのね」

これまで、マデリンは一貫してクロエには優しく接していた。だから、クロエは、これまで彼女を恐ろしいとは思わなかった。だが、ぎらついた瞳とは真逆に、張り付けたような笑顔で嘘を語るその様は、激しく怒りをあらわにするコンラッドよりも、余程恐ろしい。

「私はね、私の邪魔をする女が嫌い。コンラッドの妻になるのだと思うからこそ優しくしてやったのに、こう手のひらを返されては、仕返しのひとつもしたくなるものでしょう? コンラッド、お前は何を望む? 不敬罪を適用して公的にとらえてもいいし、森にでも放り投げて、山賊か獣に無残にやられてしまうのを高みの見物するのもおもしろいわ。ああ、それよりも、その綺麗な顔に一生残る傷でもつけてやりましょうか。だったら、ずうっと楽しめるものね」