一方、侯爵邸ではグランウィルが青くなって走り回っていた。
侯爵から早馬による連絡が来たのは三十分前のこと。
毒と言って渡された小瓶に入っていたものが毒ではなかったこと。帰宅してからオードリーを問い詰めるつもりだという内容で、グランウィルには彼女を客間から地下の部屋に移しておけ、という指示が書かれていた。
 忠実なしもべであるグランウィルは、すぐさまオードリーの部屋に行った。しかしそこには姿が見えず、書庫へ行っても見当たらない。
 彼女に許されている行動範囲はそれくらいだ。不審に思って門番に聞いても外には出ていない。
であれば屋敷内のどこかにいるのに、全然見当たらないのだ。
足早に屋敷内を歩いていると、一階の厨房前で料理人たちが集まっていた。

「あ、グランウィル様」

「なんだ?」

「買い出しに出た料理人が、ひとり戻らないのですが」

もうじき食事の支度なのに……と困ったように言われ、嫌な汗がグランウィルの頬を伝う。

「誰だ」

「新入りのレイです」

味付けがとても上手で、奥様は最近この料理人の出す料理がお気に入りだ。
だから最近は主人夫婦の料理はほとんど任せていた。

「……奥様のお食事に間に合わないとまずい。別のシェフに任せろ。それと、レイの顔をよく知っている男をひとり寄こしてくれ。こちらの捜索に加わってもらおう」

いやな予感がした。
オードリーとレイに、接点はなかったはずだ。
けれど、同時にいなくなっているという点で、なにか作為的なものを感じる。
グランウィルはアンスバッハ侯爵に事実をそのまま書いた手紙を届けるよう指示をし、屋敷のものにオードリーとレイを捜索させる手配を整えた。