ナサニエル陛下、カイラ妃がともに行方不明になってひと月。
王家は、捜索の結果、ふたりは死亡したものと発表し、コンラッド第三王子を即位させることが議会で承認された。

そしてクロエは本日、コンラッドとアンスバッハ侯爵から国王の執務室へと呼び出された。
まだ即位もしていないのに、この部屋を使っているコンラッドに呆れもするし、それをそそのかしたであろう侯爵にも呆れる。
周りの貴族たちが、それに追従する動きをすることにも、クロエはいらだって仕方がない。

「それでな。コンラッドが王となった暁には妻が必要だ。クロエ殿、君にはすぐにでも嫁いでもらおう」

「……殿下が卒業してから、というお話でしたでしょう? あと半年ほどあるじゃありませんか」

「状況が変わったんだ。分かるだろう?」

アンスバッハ侯爵の問いかけに、クロエが眉根を寄せる。

「……お父様には」

「これは次期王からの命令だ。君にも、イートン伯爵にも拒否権はない」

「婚姻に、本人の意見が反映されないなんておかしなことをおっしゃいますね」

しれっとした表情でクロエはそう言うと、侯爵の傍に控えているコンラッドに目をやる。

「コンラッド様は、本当に王になるのですか」

「ああ。父も兄もすでに亡く、この国を支えていけるのは俺だけだ。クロエ嬢、君には、俺を支える力になってほしいんだ」

コンラッドが恋に浮かれた瞳でクロエを見つめる。しかしクロエは、無表情のまま首を振った。