ナサニエルは、言葉を無くしてザックを見つめる。震える口もとが、やや臆病に言葉を零した。

「……共に……などと、今まで言われたことが無いな」

『私に任せておけばいいのですよ』

義兄であるアンスバッハ侯爵はいつも笑顔でそう言った。
承認は必要とされたけれど、意見は求められなかった。伝えればやんわりと否定されることが続けば、いっそ内密に事を進めたほうがいいとさえ思うようになった。

「……義兄上と、協力などしたことが無い」

寂寥に似た気持ちがナサニエルを包んだ。

「ああ、もしかして。父上はアンスバッハ侯爵を信じたかったんですね」

思いついたと言うように納得するアイザックに、ナサニエルの中にいる若い自分が呼応する。

(そうだ。頼りにしていた。何もわからないまま両親を失い若き王となって。支えてくれる人間が、どれほど頼もしかっただろう。あの頃は、義兄上とマデリンと支えあって、この国を治めるつもりだったのに)

「……私は分かりますよ。伯父上はとても頼りがいのある人だ。自分に力が足りないときは、彼の庇護下にいるととても安心できるのです」

バイロンの柔らかい声に、うつむいて悲しむばかりだった若かりしナサニエルが顔を上げる。

「大人になったら、ただ守ってくれる庇護者よりも、アイザックのように『ともに』と言ってくれる人間が心地よくなる。それが、成長するということなんでしょう」

(義兄上の手から離れたくて、ずっとひとりで戦っているつもりだった。……けれど、私はひとりではなかったのか)

あんなに幼かった子供たちが、当時の自分よりも逞しく成長して、ここにいる。
最初はいがみ合っていたはずのふたりだった。なのに今は、ふたりで言葉を重ね、ナサニエルの気持ちをおもんぱかってくれる。