「父上もそうじゃないんですか? だから母上を呼び戻した。あの時、ひとりではダメだと分かったんじゃなかったんですか」

ザックの胸の内に、今まで自覚さえしていなかった感情が込み上げてくる。
兄の本質を知り、歩み寄れると分かったところで失ったときのあの例えようのない悔しさ。
父がなにか画策しているのは分かるのに、理解できずにもどかしさだけが募るあの感覚。

「……信用して、共に戦ってほしいと、父や兄に願う俺は、間違っていますか?」

「……あはははは」

シン……と静まり返った部屋に、響き渡ったのはバイロンの笑い声だ。

「兄上?」

「バイロン……」

「父上がそんなに困った顔をしているのは初めて見ました。さすがだな、アイザック」

バイロンがひとしきり笑い終えるまで、ザックは待った。そして、兄が自分の意見に賛同してくれているのを見て取ると、勇気づけられたように頷く。

「政変を起こすための下準備をしてきたのが父上なら、やはり父上が主導権を持ったほうが、結束が高まるはずです。それに、父上の計画通りにすると、今後が望めない人間が出てきます。兄上をこのまま死人にする気なのですか? 母上のことはどうするつもりです。死人の妻として生きろと? それに、俺だって、これまで第二王子としてしか教育されていません。政変までは起こせても、国をつつがなく動かしていくことには経験不足です」

「それは」

「第一線を引く覚悟と固めて欲しいんじゃありません。俺たちと共に、国を守る決意を固めていただきたいのです」