「国を捨てる気ですか?」

眉を顰めるのはザックだ。
兄はともかく、国王が自国を守る責任から逃れるつもりかと思えば、声に険が混じった。
批難の視線を受けとめ、ナサニエルは苦笑する。

「……私ではどうやってもうまくできなかったのだ。種は巻いた。あとは政変を起こし、お前が政権を奪還してくれれば一番うまくまとまると思う」

「じゃあ、逆にお聞きしますが、父上はなぜ俺にはできると思うんです?」

ザックはケネスやロザリーを見つめた。

「父上も知っての通り、俺は貴族議員として活動し、一年で精神を病みました。今こうして以前のようにできているのはケネスやロザリーがいてくれたからです。こうして今命があるのも、皆の助けがあったからでしょう。……はっきり言えば、父上の構想を受けつぐのは、今の俺には無理です。明らかに、俺の力量を上回ります」

はっきりとそう言えば、ナサニエルとバイロンは顔を見合わせて困惑をあらわにする。

「……でも、父上と兄上、三人でならできるのではありませんか? この国は広い。ひとりがどれだけ頑張ったって、できることはたかが知れています。だったら俺たちみんなで協力すればいい。……俺は今回のことで、ケネスやロザリーから、そう教わりました」

ナサニエルがはっとしたように顔を上げる。