「そんな意図はない。あれは、兄上が病気で政務から離れていたからだ。当時、父上も政治介入の意思を失っていた。王家のものが介入しない政治など、恐ろしいだろう。コンラッドはまだ学生なのだから、俺が入るのが筋だと思っただけだ」

先入観は判断力を鈍らせる。警備隊長はおそらく、アンスバッハ侯爵からザックの悪い噂を散々聞かされているのだ。犯人であるという前提のもと、言葉尻を捕まえてはなんとか自白させようとしてくる。

「それより、俺と一緒に連行された女性はどうした。彼女こそなんの関与もしていないはずだぞ? もう釈放されたんだろうな」

「まだです。彼女はあまりにも毒物に関する知識がありすぎるため保護観察とされております。現在はアンスバッハ侯爵が身柄引受人となっております」

「は? なぜ侯爵なんだ? 彼女の引受人なら、イートン伯爵が引き受けてくれるだろう」

「イートン伯爵はあまりにあなたに近しい存在だ。彼に預けるのでは無罪放免と等しくなってしまいます。そのため、アンスバッハ侯爵が名乗りを上げてくださったのです。喜ぶべきでは? あのような平民の女性、無実の罪を着せられてもおかしくはありませんよ?」

「ずいぶんな物言いだな。冤罪を防ぐために君たち警備隊があるんじゃないのか」

「おっと、これは失言でしたね。……また来ます、アイザック王子。それと、お母上との面談の件ですが、警備兵立ち合いのものなら許可できます。よろしいですか?」

「ああ。とりあえず話さえできれば構わない」

「では手配しましょう。本日はこれで失礼します」