笑いかけるロザリーのそばに、クリスがとことことやってくる。

「ロザリーちゃん、クリスも行きたい。ママを助けたいの」

サラサラの前髪の合間から上目づかいで見つめられると、その要望をなんでも叶えたくなってしまうが、クリスを連れていくのはレイモンドを連れていくよりも無理だ。

「本当に危険なので、クリスさんは申し訳ないけど駄目です。代わりに約束したケーキの練習をしていてください。オードリーさんが帰ってきたら、みんなでお茶会をしましょう?」

「でも」

「オードリーさんが一番悲しむのは、クリスさんになにかあったときですよ」

「……はぁい」

渋々といった様子でクリスは首を垂れる。
ホッとしたロザリーの背中に、「私が同じ気持ちでいることは、常に心に置いてほしいところだね」とイートン伯爵が釘を刺す。

「あ、……はは。はい。もちろんです」

「分かってるわよ、お父様。私が自分を犠牲にするわけないの分かっているでしょう?」

クロエにきっぱりと言われ、逆にイートン伯爵はホッとしたようだ。
気が強く、物事をはっきり伝えるクロエは、ある意味で彼らに万全の信頼を置かれているらしい。